朝の心
“己を知り、己に克て”
- 2005.04.26
- 朝の心
ある川のほとりに一匹のサソリがいました。サソリはなんとかして川の向こう岸に渡ってみたいと思っていました。そこへ一匹のカエルが現れました。そこでサソリはカエルに頼みました。「俺をお前の背中に乗せて向こう岸まで連れていってくれないか。」しかしカエルは、「そんなことをしたら、君は僕を刺して殺してしまうだろう」と言って断りました。サソリは言いました。「お前を刺したりなんかしない。そんなことをしたら、俺も溺れて死んでしまうだろ」。この言葉を聞いてカエルは納得し、サソリを背中に乗せて向こう岸へと泳ぎはじめました。川の中程にさしかかったとき、カエルは突然お腹が燃えるように熱くなるのを感じました。見ると、サソリの毒針が刺さっていたのです。カエルは聞きました。「自分も死んでしまうのに、どうして?」サソリは一言こう言いました。「これが俺の性(さが)なんだ。」物語はここで終わってしまいます。さて、この物語が伝えていることは、いったいなんだったのでしょうか。誰の目にもこのサソリの行動は愚かです。しかし、このサソリが象徴しているのは、実は私たち自身なのです。私たちはしばしば自分の弱さに負けてしまいます。自分でも悪いと分かっているのについ友達を傷つけるようなことをしてしまったり、親に反抗したり、悪いことをしても素直に謝れなかったり、うそをついたり、人のせいにしたり、やるべきことをサボってしまったり。こうして私たちが、自分の力ではどうしようもないと諦めて自分の弱さに負けてしまう時、私たちもこのサソリと同じように人をも自分をも傷つけているのです。日向学院には「己を知り、己に克て」というすばらしい校訓があります。弱さへの傾きを感じるとき、それに打ち克とうと努力するのは本当に難しいものです。しかしその努力こそが日向学院の校訓が求めているものであり、それを通して、私たちは向こう岸に向かって一歩前進することができるのだと思います。