朝の心
いのちを削って授かったいのち
- 2012.12.03
- 朝の心
「あたたかくて,重くて…。赤ちゃんを胸の上に乗せたとき,すごく幸せな気持ちになりました。いのちの重さを感じました。」「十ヶ月待ったお産でした。苦しかったけど,その分感動も大きかった。いま,とても幸せです。」これらの言葉は,三十年にわたり助産師の仕事をしておられる内田美智子さんが紹介している出産後のお母さんの感想です。どの声からも感謝と喜びが伝わってきます。しかし,お産の場には悲しい涙もあります。内田さんが関わったあるお母さんは,妊娠十ヶ月で今日にも明日にもと赤ちゃんの誕生を待っていた頃,赤ちゃんが動かないことに気づきました。悲しいことに,赤ちゃんはお母さんの胎内で突然亡くなっていたのです。しかし,亡くなった胎児でも,母親は産まなければなりません。通常,助産師は陣痛に苦しむ母親に「がんばろうね」「もうすぐ赤ちゃんに会えるよ」と声をかけて励ましますが,死産の子を出産する母親には何と声をかけたらいいのでしょう。そのお母さんがご褒美のない陣痛に耐え,命を輝かせることのない胎児を出産するまで,付き添った若い助産師はただ手を握ることしかできなかったそうです。
内田さんはそのような様々ないのちの現場に立ち会った経験から,若者たちに次のようなメッセージを送っています。「あなたのお母さんは自分のいのちを削ってあなたを産みました。あなたが一人の人として生まれてくるために,どんなに多くの困難を乗り越えなければならなかったことか。誕生からいままでのプロセスと,いまあなたがここにいることが奇跡であることを知ってください。人は,そこにいるだけで価値があるのです」と。
さて,次の日曜日から,教会はイエスの誕生を待つ「待降節」という期間に入ります。この待降節に,わたしたちはクリスマスに向けて心の準備をするとともに,自分も周りから待たれ,そして感動のうちに迎えられた特別ないのちを生きていることを改めて考えてみたいと思います。