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MORNING TALK

朝の心

小さな鈴の音色

2013.04.25
朝の心

星野富弘さんという詩人を知っている人は多いと思います。若い頃運動が得意だった彼は、ある日、跳び箱を跳んだ時にバランスを崩し、大怪我をしてしまいました。以来、手足が不自由になり、車椅子での生活を続けています。
その彼が楽しみにしているのが、車椅子に乗って散歩をすることだそうです。しかし同時に、道のデコボコがたまらなく辛いとも言っています。デコボコ道を通る時の振動で気分が悪くなり、彼の表現を使えば「脳味噌がひっくり返るぐらい」の気持ちになるのです。また力の弱い車椅子では、デコボコで止まってしまうこともあります。
そんなある日、星野さんはきれいな音色の小さな鈴をもらいました。彼はそれを車椅子にぶら下げて、いつものように散歩に出かけました。そしてデコボコ道にさしかかり、慎重に車椅子を動かそうとした次の瞬間、車椅子につけていた鈴が、心に沁みいる音色で「チリン」と鳴ったのです。星野さんはもう一度この音色を聞きたくて、引き返してわざとデコボコ道を通り、「チリン」「チリン」と鈴を鳴らしました。その日から、デコボコ道を通るのが楽しみになったといいます。

私たちは、自分の歩む道のデコボコや小石をなるべく避けようとします。また、そういった困難が自分の前にあるのを見たり予想したりしただけで暗い気持ちになり、ネガティブな姿勢になりがちです。しかし、そのデコボコのおかげで、あの澄んだ鈴の音を聴くことができるのも事実です。なぜなら、私たちの心にも一人ひとりにきれいな音色の鈴があるからです。その鈴を鳴らせる人もいれば、心の奥に抑え込んで鳴らせないままの人もいます。
どんな人生でも、デコボコのない真っ平らな道ばかりではありません。大切なのは、どんな道を歩んでいても、自分の心の中にある小さな鈴、それも実はとても美しい音色の鈴を、鳴らそうとする気持ちを持つことです。そして、最後にどれだけたくさん鈴の音を鳴らすことができるかどうかが、その人の幸せにつながるのではないでしょうか。
写真
写真は華道同好会の緒方華那さん(3−A) ・ 下沖留美さん(2−B)の作品

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