朝の心
アンパンマンの正義
- 2013.10.25
- 朝の心
絵本作家のやなせたかしさんが、先日94歳で亡くなられました。皆さんの中にも、テレビや絵本で、やなせさんの代表作であるアンパンマンに親しんだ人が多いと思います。
やなせさんは、アンパンマンのことを「史上最弱のヒーロー」と言いました。一般的にヒーローというのは、悪役や怪獣を倒し滅ぼすことが多いものですが、アンパンマンはそうではありません。もともと食べ物なので「かびるんるん」など汚い物が苦手で、水に濡れると弱く、敵であるバイキンマンをアンパンチで家に帰すだけのヒーローです。このヒーロー像は、実は原作者のやなせさんの正義に対する考え方に基づいています。
やなせさんにとって「本当の正義」とは、ミサイルや爆弾を落として敵を倒したり、戦争したりすることではなく、まず目の前の飢えた人に食べ物を与え、ひもじい子どもを助けることだそうです。正義の考え方は国や時代、そして思想によって変わってくるもので、絶対的なものではありません。しかし愛と献身は決して変わらない正義だという考えから、アンパンマンというヒーローが生まれたのです。困った人に自分の体の一部を与えれば、相手は勇気と元気も一緒に受け取ることができる。これこそが本物の正義の味方だと。
イエスは神の前に召される時、「あなたは飢えている人に食べ物を与え、喉が渇いている時に飲み物を与え、旅をしている時に宿を貸し、裸の時に着る物を着せ、病気の時に見舞い、牢にいる時には訪ねてくれたか」と問うといいます。そして「私の兄弟である最も小さい者にしてくれたのは、私にしてくれたことだよ」と言っておられます(マタイ25・31〜46参照)。
イエスの求めるこれらの行為は、革命などによって政治や社会を変える大きなことでは決してありません。目の前にいる弱い人や困っている人、悲しんでいる人にちょっとした手を差し伸べることです。それだけでいいんだよ、いや、それこそまずしなければならないことだよと言っておられるのです。アンパンマンに象徴されるやなせさんが主張する「本当の正義」とイエスの教えは、非常に通じ合うものがあると、改めて気づかされました。
写真は華道同好会:森岡美帆さん(2−B)の作品