朝の心
ミニSLの話
- 2015.05.01
- 朝の心
「出発進行!」と言って汽笛を鳴らし、ミニSLを今日も動かすのは、小山政二さん66歳。勤めていた自動車販売会社を49歳で辞め、以来、各地のイベントでミニSLを走らせては子どもたちに喜ばれています。
小山さんは22歳で結婚し、子どもにも恵まれ、平穏な日々を送っていました。ところが31歳の時に胃癌が見つかり、さらに目に難病を患って視力が極端に落ちました。そんな折、妻の文子さんが100万円もするミニSLの組み立てキットをプレゼントしてくれました。小山さんは小学生の頃からSLがとても好きだったのです。後から小山さんが知ったことですが、文子さんは当時、夫が長く生きられないだろうと医者に言われたのだそうです。それで文子さんは、趣味に没頭させて励まそうとして無理に買ったのだろうと、小山さんは今になって思っています。小山さんは夢中になって1年がかりでミニSLを完成させ、空き地で走らせて家族で楽しむようになりました。すると思いが通じたのか、小山さんの病状は奇跡的に回復しました。ところがミニSLが完成して7か月後、文子さんがくも膜下出血で突然亡くなってしまったのです。39歳でした。
こうして小山さんは、妻に感謝の気持ちを伝えきれないまま永遠の別れを迎えたのでした。やがて時がたつにつれ、生前文子さんがよく口にしていた「ミニSLは人の輪を広げるよ」という言葉が頭から離れなくなりました。この妻の思いを載せてミニSLを走らせたいと思い、ついに小山さんは会社を辞め、幼稚園やいろいろなイベントに出向くようになりました。そして、ミニSLは、文子さんの言ったとおり子どもたちに喜ばれ、「ミニSLの乗車が縁で電車の運転手になりました」などといった手紙が届いたりして、人の輪が広がっていきました。
今ここに生きている私たちは、当然のことながら自分一人では生きていけません。誰かの支えや励ましがあってこそ、今を生きているのです。そこには、はっきり目に見える形での支えや励ましもあるでしょうが、どちらかというと知らないうちに支えられ、気づかないうちに励まされていることの方が多いと私は思います。
大切なことは、自分は多くの人に支えられてここにいるのだということを常に謙虚に意識すること、そしてそれにこたえていく努力と誠実さが必要です。つまりそれは、日々与えられた毎日を、感謝して一生懸命に生きていくことに尽きるのではないでしょうか。