朝の心
本当のカウンセリング
- 2015.10.05
- 朝の心
大学4年生のとき,精神科で働いている臨床心理士の先生に求められ,数名の同級生と一緒に一つ下の学年の心理学実習に参加しました。実習の内容は自己主張の体験学習で,設定は「肉屋にニンジンを買いに行く」というものでした。肉屋ですから店頭に野菜が置いてあるはずがありません。それでも買い手は何とかニンジンを売ってくれと主張し,肉屋は絶対に売らないように必死にがんばり,いかにしてお互い相手を説き伏せるかというゲームでした。家族が病気だからニンジンを売ってくれとか,わたしはバイトだからそんな権限がありませんとか,それぞれが自分の都合の良いように設定し,主張をし合いました。
授業の最後に,先生はその授業の振り返りをしました。いろいろな学生の主張を取り上げては,褒めたり,他の学生の意見を求めたりしていきました。そんな中,先生は私の同級生の主張を「さすが4年生。それはカウンセリングそのものだ」と言って非常に感心しながら褒めました。それはこんな主張でした。「うちは肉屋ですから,ニンジンはありません。でも,ニンジンが手に入る店を私は知っています。今から一緒に行きましょう」と言って店まで一緒に歩いて行ったというのです。先生は,「カウンセリングとは,苦しんでいる人の相談に答えることではない。その人が自分の力で立ち上がって歩けるまで一緒につきそうことこそ,本当のカウンセリングなのだ。」と言われました。
今日,カトリックの暦では大天使ラファエルをお祝いしています(聖ミカエル・聖ガブリエル・聖ラファエル大天使の祝日)。ラファエルという名前は,「神は癒す」という意味ですが,旧約聖書の中でのラファエルは,自分から直接誰かを癒すことはなく,旅人とともに旅をし,人々が癒されていく場所にずっと付き添っていきます。私たちもラファエルのように,身近で困っている人,苦しんでいる人のそばにそっと寄り添うことのできる人間になれたらと思います。