皆さん、おはようございます。いい時間帯ですね。現代は科学と技術が加速度的に進歩している時代です。新たに生み出されるガジェットは私たちの生活を便利にしていってくれます。しかし同時に、同じ技術が人の生活を脅かしたり、命を奪ったりしていることも事実です。最近ではドローンが暗殺に使われたというニュースもありましたね。科学技術にはいつも倫理的な問題がつきものです。

重度の自閉症を抱えながらも作家として活躍している東田直樹さんは著書の中で人のコピーを作る「クローン技術」について次のように語っています。「どの生物も他の生き物の命を奪い、生きながらえている。それが生物として当たり前の営みだからだ。しかし、クローンみたいに命を生み出すという科学は、全く別の問題ではないだろうか。(中略)奇跡の連鎖により誕生するのが命だ。生命を扱うには人間はあまりにも未熟すぎるのではないだろうか」。そして、どんなに小さな命でもあなどってはいけない。その命も限りない奇跡の連鎖の中で生まれたものであり、人間の時代なんて地球の歴史から見れば一瞬でしかないのだ。いのちを軽んじれば、他の生物が人間を滅ぼすかもしれないと。※

いのちの誕生は実に奇跡の連続であり、一人の人が生まれてくることは、天文学的な確率で起こる、本当の意味で「有り難い」ことなのです。最近、私は10日間ほど、ずっと回復をお祈りしていた人が亡くなるという体験をしました。友人のお父さんが突然倒れ、意識不明の状態が続いていたのです。真剣にお祈りして、心の中では奇跡が起るはずだと信じながら、そうではない場合も有りうるのだということが脳裏をよぎる毎日でした。こんなことをなぜ神はお許しになるのかわかりません。

しかしながら思うのです。そのお父さんが生まれていなければ、お母さんと結婚していなければ、その友人は生まれてこなかったわけですし、私は友人と出会うことはできませんでした。私たちはいのちの有り難さを本当に感じる時、それがどんな人であっても、どんな人生であっても大切にし、そのいのちに「ありがとう」と言うことができるのだと思います。

「先生、わかりました。これからは『ありがとう』って言いながら蚊を叩くようにしますね！」　それはまた別の話。

※東田直樹「命のバランス」『絆創膏日記』角川書店(2020)117－119頁参照