朝の心
愛は身近な現実
- 2020.09.25
- 朝の心
今から十年前の出来事を最近Twitterで公開した、一人の女性の話を紹介したいと思います(「朝日新聞」2020/9/9参照)。
いわゆるリーマンショックの影響で経済が混乱していた十年前は、一流と言われている大学を卒業しても、就職がとても困難な時代でした。当時その女性も内定はゼロ、不採用はすでに70を超えていました。そんなある日、会社の最終面接のために福岡から中部国際空港行の飛行機に搭乗したときのことです。食費を節約するため自宅で焼いたホットケーキを切り分けて弁当箱に入れたものを、昼食として機内で取っていました。すると食べ終わったタイミングで、一人の客室乗務員が「容器を洗いましょうか」と声をかけてくれたのです。「えっ、そんなことまでしてくれるのですか」と驚きながらもお願いすると、しばらくしてきれいになった弁当箱が返ってきました。そればかりか、その客室乗務員は彼女が降りるとき、キャンディーと一緒に、次のように書かれた手紙を手渡してくれました。
「本日はご搭乗頂きましてありがとうございました。
お客様の第一印象は、ホットケーキのように優しくて温かいお人柄でした。面接などで緊張されることと存じますが、お客様のお人柄と笑顔を武器に頑張ってください。
お客様にとって最高の仕事に出会われますことをお祈り申し上げます」
それまで家族や友人から励まされたことはあったものの、初対面の人に応援されたのは初めてで、彼女は驚くと同時にとても勇気がわいてきました。そしてこの手紙のおかげで「失敗してもここで終わりではないんだ。また頑張ればいい」と気持ちが楽になり、面接会場に向かうことができました。ついには最終面接で見事合格したのです。
この話を今、Twitterで公開した理由を、彼女は「新型コロナウィルスの影響で沈んだ気持ちになりがちな今だからこそ、このエピソードを知ってもらいたかった」と述べています。
私たちは今、コロナ禍の状況で、人と距離を取らなければならない辛さを体験しています。今日紹介したエピソードは、家族や友人の存在のかけがえのなさは言うまでなく、人と出会うことの尊さを改めて感じさせてくれるものです。人との関りにおいて愛の業を具体的に表現することがいかに尊いか、今の状況だからこそ、あらためて実感させられるのではないでしょうか。
フランシスコ教皇は言います。
「神は身近な現実です。なぜなら、愛は身近な現実だからです。神は具体的です。なぜなら、愛は具体的だからです」。