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MORNING TALK

朝の心

心の密

2021.02.19
朝の心

「敷地に入らないでください」「首都圏から来た荷物は受け取りたくありません」。ウィルス感染への不安が高まってきた昨年の春頃から、このような言葉をよく目にするようになったと話すのは、愛媛県で運送業を営む松本(つかさ)さんです。そんな時に出会ったのが、「シトラスリボン運動」。手づくりの黄緑色のリボンを身に着けることで、コロナに対する差別や中傷をなくそうと訴える運動です。松本さんはその趣旨に共鳴し、車用ステッカーを作って配りました。リボンには三つの輪があり、「地域」、「家庭」、そして「職場と学校」を表します。コロナが早く終息して、誰もが安心して三つの場に戻れるようにと願いを込めたものです。この運動では、駅前で署名を集めたりしません。感染者を中傷する人を非難したりすることもしません。松本さんらは、「何が正しいかは人それぞれです。自分たちの正しさを押し付けることは良くないと考えました。共感こそが運動の支えです」と語ります(「天声人語」1月4日参照)。

 脳科学者の中野信子さんによりますと、他人への攻撃的な感情を抑制するのは、脳の前頭前野と呼ばれるところの役割が大きいそうです。ただ前頭前野の発達は遅く、25~30歳でピークを迎えます。また、年を取るにつれて前頭前野も委縮していきます。特に人への共感が少ない人ほど、萎縮していくスピードは速くなっていくそうです。

 さまざまな制約によって世の中が窮屈になってくると、相手のことをつい杓子定規に推し量り、他者に対して攻撃しがちになります。一人ひとりの状況や、それぞれの立場を顧みないまま物事を評価したり判断したりする行為は、行き過ぎると時に暴力的になりかねません。その典型的な例が、自粛警察と呼ばれる存在です。kokoro14.jpg

 まずは相手の立場になって考え、共感からはじめることが大切なのではないでしょうか。共感こそが相手を理解し、思いやる第一歩です。感染予防のために密は避けなければなりませんが、互いに共感しあう「心の密」は、しっかり持っておきたいものです。

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