朝の心
小さなきっかけ
- 2022.06.22
- 朝の心
3年前の夏、私はマルタという国で夏を過ごしました。
マルタは日本人にはあまり馴染みのない国かもしれません。ヨーロッパ・地中海の中央に位置し、人口は約40万人で宮崎市の人口とほぼ一緒、面積は宮崎市の半分という、とても小さな島国です。東西冷戦終結のマルタ会談の地といえばピンと来る人もいるかもしれません。ヨーロッパの人たちにとっては有名なリゾート地である上に共通語の一つが英語ということで夏のバケーションと英語の留学を兼ねてヨーロッパ中からたくさんの人が訪れます。私も英語の勉強のためにサレジオ会から送られました。
私が滞在していた修道院は少し特殊なところで、アフリカからの難民青年たちの自立を支援する家でした。マルタはアフリカとヨーロッパの間に位置していることから毎週アフリカから100人以上の難民が漂着する国でもあり、その修道院ではスーダン、リビア、エチオピアなど国内情勢が不安定な国から逃げてきた若者たち10人と一緒に生活していました。どの若者も陽気な性格ですぐに打ち解けることができ、夜になるとダイニングでいつの間にかラップバトルが始まるなど、楽しいひと時を過ごしていました。
しかし、今では明るく振る舞う彼らにはそれぞれ壮絶な過去がありました。ある若者は母親がマラリアに侵されながらも病院に行くことができず、5歳の自分を腕に抱いたまま亡くなっていたり、ある若者は内戦に巻き込まれ、流れ弾が3発腹部に当たり、自分では排泄できない体になってしまったり、またある若者は命からがら仲間とボートで逃げてきて食糧も燃料も尽きたのち、幼馴染の友達と浮き輪に摑まって必死になって泳ぎ、陸にたどり着いたときには隣にいたはずの友達がいつの間にか亡くなっていたりなど、とても私には想像できないほど辛い過去を持っていました。
その話を聞いた瞬間から私の中で「難民」という言葉は急に身近な言葉になりました。それまでテレビのニュースで、大学の講義で何十回、何百回も聞いてきた言葉ですが、やはりどこか自分には関係のない話、遠い国の話としてしか受け止めることができなかったのだと思います。しかし、難民である彼らと友達になったことで難民の問題に対して自然と具体的にイメージできるようになりました。それからは少しずつではありますが、難民の問題について世界中で起こっていること、日本で起こっていることにアンテナを張り、自分なりの考えを持つようになりました。
私たち人間は話を聞くだけでは中々具体的にイメージし、考えることができません。しかしちょっとした経験や共通点を持てばその話題に対して親近感を持つことができます。近所に外国の人が住んでいるからその国に興味がわいたり、好きなアイドルが病気で苦しんでいるからその病気に関して調べてみたり、きっかけは小さなものかもしれません。しかしその小さなきっかけが周囲に目を向け、社会で今何が起こっているかを考える良いきっかけになります。本を読んだり人の話を聞いたり、いろんな活動に参加してみたりしてたくさんのきっかけ作りをしていきましょう。